王太子の婚姻とあって、結婚式は国をあげての大掛かりなものとなった。

 派手に飾り付けられた街には国中から集った民衆があふれ、あちらこちらに配置された楽団から高らかな音色が響き渡る。
 老若男女立場を問わず、手に手に色彩豊かな旗を振り、普段にない喧騒。まさにお祭り騒ぎ。

 挙式自体は招待客のみで行うため、大聖堂の周囲には大勢が詰めかけてはいたものの招待状さえ所持していれば中に入ることは容易だった。
 セレニカに向けられる視線は、これまでの経緯を知っているのだろうと察するに余りあるもので、しかしセレニカは顔を上げ歩みを進めていく。

 関係者以外立ち入れず、さらに警備のために出入りが確認され制限されている廊下は、外のにぎわいを知っているからこそ奇妙に静かだ。白で統一された内装は厳かな雰囲気を醸し出し、自身の置かれた立場とこの婚姻にまつわる内情との差を感じ鼻で笑いそうになる。

「殿下、特別ゲストのご到着です」

 護衛が仁王立ちしている部屋を前に、案内人がノックとともに告げ、応えを受けてドアを開ける。
 中にいたのは当然ヴァディムで、すでに正装を着込み、見たところ新郎としての用意はほとんど整っている。椅子にゆったりと腰掛け、そばに侍っていたセレニカとも顔見知りの者たちと雑談でもしていたのだろう。

「レニィ、元気だったか?」

 ヴァディムの呼びかけに、小さな、しかし聞こえよがしの笑い声がさざめく。
 にやけた表情を繕いもしない男たちは、気を利かせたつもりなのか、好奇の視線を向けつつ退室していった。

「……この佳き日にご招待くださり感謝いたします。殿下もお元気そうで何よりです」

 どうしても強ばる声で返すセレニカに、ヴァディムは素知らぬ顔で笑みを浮かべる。