「それにしても、殿下って錦鷹団の指揮する責任者なのに全然ここにいらっしゃいませんよね」
ベアトリスはジャンに愚痴を漏らす。
「え?」
少し離れた場所にいたサミュエルがびっくりしたような顔をしてこちらを振り返った。ジャンは面白いものでも見つけたかのように、ベアトリスを見ている。
「ジャン団長とサミュエル様もそう思いません? 殿下ってジャン団長にほぼ全部を押し付けて、ご自分は全然こちらにいらっしゃいませんよね」
ベアトリスが錦鷹団で働き出してからもう二カ月経つというのに、アルフレッドが現れたことはただの一度もない。ただ、指示事項は団長のジャンを通して定期的に来るが、あまりにも放置しすぎな気がする。
「……えーっと、それはどうかな。殿下はお忙しいから」
上司かつ王族であるアルフレッドを悪く言うのは気が引けるのか、サミュエルは言葉を濁す。
「ちょっと人使い荒すぎなのではないかと思うんです」
ベアトリスは唇を尖らせる。
「うーん、どうだろう?」
サミュエルの目が泳ぐ。一方のジャンはくくっと肩を揺らした。