錦鷹団は、公式には記載のない秘密組織だ。そのため、団員達の多くは全員他にも仕事がある。ランスの場合は侯爵家当主として領地経営を行っているため、王都と領地を頻繁に行き来しているのだ。
やがて通路は離宮への分かれ道に差しかかり、ベアトリスはお辞儀をしてランスと別れる。
離宮に戻ると、ベアトリスはまっすぐに自分の席に向かった。すぐにアルフレッドから追加頼まれた仕事をやらないと期限に間に合わなくなってしまうため、すぐに取り掛かりたかったのだ。
机の上に置いてあった資料を開くとそれは、とある交通事故が、実は被害者に恨みのある貴族令息が裏で糸を引いたものだったという概要だった。
(これなら、明日の夜にはまとまりそうだわ)
複雑な事件だと相関図を作るのだけでかなり読み込まなければならないのだが、思った以上に単純な事件でほっとする。
弁論会で論破されたとある伯爵令息が衆人環視の中で恥をかかされたと逆恨みし、論破した側の子爵令息の馬車に細工をしたということのようだ。何枚か捲ると、馬車に細工するために金で雇ったごろつきの証言も載っていた。
(こんなことをしているようでは、論破されたのも当然な気がするわ)
事件は『逆切れ伯爵令息が被害者側の子爵令息に多額の慰謝料を支払う代わりに告訴はしない』ということで決着を見せているようだ。