「ランス様はお優しいですね」

 ベアトリスは笑って誤魔化す。

「そんなことは……。ただ、私にもベアトリスさんとそう年の変わらない妹がいたので、気になるだけです」
「妹君が?」
「既に亡くなりましたが。八年前の災害で」

 ランスの表情が寂しげに翳った。

「そうだったのですね。余計なことを聞きました」

 ベアトリスはハッとして、謝罪する。
 八年前、セルベス国を未曾有の大雨が襲い、王都の一部が洪水になった。ベアトリスの両親が亡くなったのもその災害に巻き込まれてのものだった。
 
「いえ、謝らないでください。そういうつもりで言ったのではありませんから」

 ランスは困ったように眉尻を下げる。

(ランスさん、優しいなぁ)

 きっと、亡くなった妹君からするとさぞかし素敵なお兄さんだったに違いない。

「ところで、ランス様はいつ王都に?」
「今日です。今回は少し長めに滞在します。二ヶ月くらいかな。今は陛下に登城のご挨拶に向かうところです」
「そうなのですね。二ヶ月間、ランス様にいていただけるのは頼もしいです」

 ベアトリスは笑顔を見せる。