それにしたっておかしい。
 自分の娘を是非王太子妃に、という貴族は多い。今の今まで決まっていなかったのはなんらかの理由がありそうに思えた。

「もし大変なら、私からもベアトリスさんが妃教育を受ける必要はないのではないかと、殿下に進言しましょうか?」
「え?」
「だから、妃教育です。大変で、負担になっているのでしょう?」

 ランスは心配そうに、ベアトリスを見つめる。

「あ、お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫です」

 ベアトリスは慌てて両手を胸の前でふる。
 こんな個人的なことでランスの手を煩わせるのは気が引ける。それに、ジャンのあの様子ではランスが進言したところで結果は同じだろう。

「本当に?」 

 ランスは眉根を寄せる。ベアトリスが無理しているとでも思ったのかもしれない。

「はい。それに、割と楽しんでいるですよ」
「楽しんでいる?」

 ランスが聞き返す。

(あ、不謹慎だったかしら)

 妃教育を楽しんでいるだなんて、眉をひそめられてもおかしくない。