「セルベス国の初代国王は、西方に位置する山岳民族であったと言われております。この山岳地帯は以前お話しした『失われた魔法~悠久のときを経て~』で出てきたローレンツ山脈のことです」
ベアトリスはルーモア先生の話しを聞きながら、これまで受けた授業の内容を思い返す。確か、ローレンツ山脈はまだ魔法が日常的に使われていた時代に特に強力な魔法使いを輩出することで有名だった地域がある。
(なるほどね。じゃあ、アルフレッド殿下が魔法を使えるのも、そこの出身の人の末裔だからかしら?)
ルーモア先生の話を聞きながら、教科書をめくる。そして、そのページに書かれていた家系図にベアトリスは目を留めた。
(ん? ラマール公爵家?)
どこかで見た覚えのある家名で、すぐに思い出した。ジャン団長の家名だ。
系統を辿ると、現王妃様の生家──隣国ルーゲルツ国の公爵家のようだ。
(と言うことは、ジャン団長は王妃様の血縁者? 年齢的に、甥とかかしら?)
ずっと胸につかえていた疑問が解けるのを感じた。
錦鷹団の副団長を務めているサミュエルは、名門バトラー公爵家の嫡男だ。とんでもなく高貴な身分を持っており、このセルベス国では彼より高位など王族以外いない。そのサミュエルがいつもジャン団長の気まぐれには大人しく従っているのが不思議だったのだ。
ジャンの家名である『ラマール』はセルベス国の貴族年鑑を見ても見当たらない。けれど、王妃様の血縁でこの国に来た人なのであれば王族と縁続きなので偉そうなのも納得だ。
妃教育終了後、ベアトリスは離宮へと戻る。その途中、見覚えのある人の後ろ姿を見つけて声をかけた。
「ランス様!」