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 ベアトリスは錦鷹団の団員だが、表向きは〝王太子アルフレッドが一目ぼれした令嬢〟ということになっている。もっと正確に言うと、アルフレッドがゴリ押しして急遽迎え入れた側妃だ。

 そのため、どうしてもやらねばらならないことがあった。

「ご機嫌よう、ルーモア先生」
「ご機嫌よう、ベアトリス様」

 ベアトリスが優雅に頭を下げると、相手の女性──王太子の妃教育の指南役であるルーモア先生も優雅にお辞儀する。
 そう。どうしてもやらねばならないこと。それは妃教育だ。

 ベアトリスは実のところお飾りの側妃なのでこの授業を受ける必要などない。しかし、表向きは寵妃であり、正妃として迎え入れる時間すら惜しいとアルフレッドが側妃として迎え入れたことになっている。
 周囲に真実を悟られないようにしているので妃教育を受けていないと不審に思われるとジャンに説得(命令ともいう)され、しぶしぶ受けることになった。

(でも、結果として受けてみてよかったわ)

 元々本が大好きで世界中の言葉を覚えてしまうベアトリスは勉強が嫌いではない。
 一般に出回っている書籍にはなかなか載っていないことまで教えてもらえる妃教育は、むしろ興味深くて面白いのだ。

「それでは、本日はセルベス国の王家であるガルフィオン王家について、その歴史を紐解いていきたいと思います」

 ルーモア先生はおっとりとした語り口調で、手に持っている本『セルベス王家の歴史』を読んでゆく。これも、一般には出回っていない本だ。