「なら、なおさらさっさと取り掛かったほうがいいな。もう戻っていいぞ」
「は?」

 ベアトリスはジャンを見返す。

「なんだ?」
「なんだ、じゃないわよ! 普通、そこで『では、妃教育を取りやめるように殿下に進言しよう』もしくは『期限は延期しよう』ってなるわよね?」

 思わずジャンが上司であることも忘れて詰め寄ってしまった。ジャンはベアトリスを見返し、首を振る。

「ならないな」
「なんで!」
「仮初めでも寵妃は寵妃だ。妃教育を受けないと不審に思われる。それに、期限は延ばせない」

(こっのー!!)

 なまじ顔が綺麗なだけに、澄ました顔して答える様が余計にイラッとする。

「わかりましたよ! 明後日までにやればいいんでしょ!」
「ああ、任せた」

 なんて小憎たらしい男なのだろう。
 だがしかし、ここで嫌みを言って呑気に時間を潰している暇はない。

 ベアトリスはバシンとドアを閉めると、足早に自席へと戻ったのだった。