階段からは左右に廊下が延びているが、ベアトリスは右に向かうと一番奥の扉の前に立った。木製の重厚感あるドアをトン、トン。トンとノックする。

「ベアトリス=コーベットです」
「入れ」

 中から声がしたので、ベアトリスは扉を開けた。

 部屋の中に目を向けると、まずこちらを見つめるジャンの黒い瞳と視線が絡んだ。落ち着いた、けれど何事も見逃さないような鋭さのある視線だ。

「殿下よりご依頼されておりました、こちらの書類が完成しました」
「見せてみろ」

 ジャンに片手を差し出され、ベアトリスは今さっき完成したばかりの書類を渡す。ジャンはそれを捲りざっと目を通すと、再び顔を上げた。

「子細についてはこのあと確認するが、なかなかよくできているように見える」
「それはどうも。お褒めにあずかり光栄です。殿下から『四日以内に』というあり得ない要求でしたので、とても頑張りました」
「そうか、それはご苦労だった」

 ベアトリスの皮肉を込めた言い方に動じることもなく、ジャンは頬杖をついたまま口角を上げる。