「せめて、五日はほしいところです」

 ベアトリスは真顔で抗議する。

「俺もそう言ったんだけど、殿下が『あいつなら大丈夫だ』って」
「ほほう?」

 一体何を以て、『あいつなら大丈夫』などと言ったのかと問いただしてやりたい。

 実を言うと、ベアトリスは契約妃になれと言われたあの舞踏会の日とこの離宮にやってきた日以外、アルフレッドと全く会っていない。大丈夫も何も、彼はベアトリスについてほとんど何も知らないはずだ。

「言付けは、ジャン団長から?」
「まあ、そうだね」
「わかりました。ちょうど団長のところに伺おうと思っていたところなので、そのついでにわたくしから直接話します」
「うん、そうしてくれると助かるね」

 サミュエルはホッとしたような表情を見せる。

「そうそう、マーガレットがきみに会いたがっているんだ。今度、お茶に誘ってやってくれ」
「それは是非!」

 マーガレットとは一カ月以上会っていない。会いたいのはベアトリスも一緒なので、是非ともお茶会を開きたい。
 少しだけ気持ちが上向いたベアトリスはぐっと拳を握って気合いを入れる。読み返していた奴隷商人に関する事件の書類と、今さっきの一冊を手に持って立ち上がると、そのまま、二階にある錦鷹団の団長室へと向かった。