アルフレッドから突然連れ出された夜会の翌日、ベアトリスはローラから会いたいと言われて指定された場所に会いに行った。もしかしたらローラはベアトリスの知る優しいローラのままで、実は何かやむを得ない理由──例えば実家が多額の借金をしていてその債権を持つ貴族が娘をブルーノと結婚させたがっていて、婚約者であるベアトリスと別れさせるためにローラを利用したのではないかと、どこかで期待していたのだ。

 けれど、結果としてその期待は完全に裏切られることになった。

『どこで殿下に会ったの?』
『どうやって殿下を誑かしたの?』
『まだ婚約破棄してから日が経っていないのに、おかしいわ。あなた、浮気していたのね!?』

 ローラの口から出たのはベアトリスからすると到底受け入れがたい侮辱の言葉ばかりで、自分がしたことに対する謝罪の言葉は何ひとつなかったのだから。

『どうせすぐに飽きて捨てられるわ』

 帰り際に投げつけられた台詞を聞き、ドアを開けようとしたベアトリスはぴたりと動きを止める。

 アルフレッドがベアトリスに近づいたのはお飾りの側妃にして、彼の補佐官として働らかせるためだ。将来的にアルフレッドが愛する妃を娶ったときに、ベアトリスはお飾りの妃の役目を解任されるだろう。はた目から見たら飽きて捨てられたように映るかもしれない。

 ベアトリスは背後を振り返り、ローラを睨み付ける。

『そうかもね。でも、あなたには関係のないことだわ』
『なんですって!』

 ローラと思しき金切り声が聞こえたけれど、そのままドアを閉めて店を出る。決して振り返ることはなかった。