「それなら安心しろ。お前には、俺の妃になってもらうから大丈夫だ。側妃なら面倒な手続きもいらないし、住まいも俺の離宮の一部だからな」
「ああ、なるほど。お妃様なら殿下の離宮にいるのが当然ですものね」
ベアトリスはふむふむと頷き、はたと動きを止める。
(え? 待って。お妃様……?)
「無理無理無理! 無理です! 絶対に無理! お妃様ってどういうことですか!」
数秒のちに言われていることを理解して、ベアトリスは絶叫する。
「大丈夫だ。王宮舞踏会の日にお前を見初めた王太子は、お前を探してはるばるバトラー公爵家の舞踏会まで赴いた。そして無事に発見し、公衆の面前で愛を囁き連れ帰った。王太子はその想いの赴くまま、ベアトリス=コーベットを側妃に据えた。完璧なシナリオだろう?」
「はあ!?」
どこが完璧なのだ。ベアトリスにとって、寝耳に水どころの騒ぎではない。
セルベス国の王太子は制度上三人の妃を持つことができる。正妃と側妃二人だ。そして確かに、正妃を迎えるには議会の承認や盛大なパレードを含む仰々しい手続き、式典があるのに対し、側妃はほとんど手間なく妃になれる。