ベアトリスはハッとする。

(だからどこにも組織名称が書かれていなかったのね!)

 王族直轄の騎士団と言うことは、つまりは秘密警察のようなものだ。存在は公然の事実でも、その詳細は秘密に包まれている。ベアトリスも王族直轄の騎士団があるという噂は聞いたことがあったが、その名称や場所は全く知らなかった。

(あのジャンって人がわたくしのことをアルフレッド殿下に話したのね!)

 やけに偉そうな態度の男が脳裏に甦り、イラッとする。失礼なだけでなく、こんな厄介ごとまで持ち込むとは許しがたい。

「わたくしに務まるとは思えません」

 ベアトリスはひとまず、『荷が重すぎます作戦』で断ることを試みる。王太子の補佐官など、聞いただけでも面倒そうだ。

「大丈夫だ。これを読めるだけでも、かなりの即戦力だ」
「言葉がわかる、という意味でですか?」
「それもそうなのだが、この封筒を他の者に見せたときに反応がおかしいと感じたことはなかったか?」
「反応が?」

 ベアトリスはそう言われ、これを拾ったあとのことを思い返す。ベアトリスがこの封筒を見せた人は全部で三人──マーガレットと門を守っていた騎士と、ジャンだ。