アルフレッドは意味ありげに口の端を上げ、ベアトリスを見つめる。

「お前をここに連れてきたのは他でもない。仕事を依頼するためだ」
「仕事……ですか?」

 ベアトリスは戸惑って聞き返した。ベアトリスのしている仕事と言えば、翻訳業だ。けれど、それは偽名を使って仕事していて誰にも明かしていない。

「ああ、そうだ。お前の悩みを一気に解決する話だぞ」
「一気に」

 ということは、王族の身の回りの世話をする行儀見習いに命じるつもりだろうか。王族の行儀見習いをした令嬢は、箔がついて結婚市場で人気が出るのだ。
 しかし、アルフレッドの口から飛び出した役職はベアトリスの想像を裏切るものだった。

「お前を俺の、補佐官に命じる」
「へ? ほ、補佐官!?」

 想像だにしない仕事内容に、ベアトリスは素っ頓狂な声を上げる。

「ああ、そうだ。先日お前はこれを拾ってきただろう?」

 意味ありげに見せられたのは、見覚えのある封筒だった。真っ白な封筒の表に『錦鷹団 ジャン=アマール団長閣下』と書かれている。

「なんでそれを!?」
「なぜ? 錦鷹団は王族直轄の騎士団だ。俺がこれを持っていても、なんら不思議はないだろう?」
「……王族直轄の騎士団?」