「サンキュ」と笑った彼は、机を少し動かして私の机とくっつけた。
「なにしてて遅れそうになったの」
同じものをかけているわけですから当然ルートが外れますよね、という数学教師の説明を聞き流しながら、頬杖をついている彼────水谷嶺緒にコソッと訊ねてみる。
ボーッと黒板を見つめていた彼の視線がスッと流れ、私を向いた。
その瞳がまっすぐに私をとらえたとき、無意識にも綺麗だと思ってしまった。
普段あまり意識してみていなかったけれど、よくみると彼はものすごく美形なのではないか。
学年で目立ち、騒ぎになるほどの顔のつくりではないはずなのに、どうしてか引き込まれて仕方がない。
不思議な感覚に陥ってしまうような、そんな妖しい瞳だった。