「いつからっ、いつから推してるの……!?」

「お嬢様作品あたりかな。それからずっと追ってる」

「せ、先輩じゃないですかぁ……!!」



 私よりもはるかに古参な彼は、少しだけ誇らしげに鼻を鳴らす。



「もしかして、先生が限定公開してくださった『桃色の絆。 -恋物語編-』とか読んだことない感じ?」

「ないない、なにそれ恋物語編なんてあるんですか…!?」

「今は非公開だけどね」

「え、どうして水谷くん知ってるの?」

「そこ聞く? 聞いちゃう?」


 にやっと笑った水谷くんは、「実は」と天を仰ぎながらため息を吐いた。


「ファンになりたてのころに、どうしても読みたいですってお願いしたんだよ。そしたらなんと、年末までの特別公開をしてもらった」

「……え? はっ、ちょ」

「感想ノートではあまり騒げなくて黙ってたけどさ、どー考えても俺のためだと思うんだよあれ。確定ファンサもらってると思うんだよ」

「え、それさ……完全認知って、やつじゃないの?」

「そうなんだよね、実は。いやあ、実はね」


 なんだよそれ!
 ずるいじゃないか!!


 という心の叫びはなんとか堪えて、「どんなストーリーでしたか……?」と問いかけてみる。



「言っちゃっていいの? 先生の美しい描写あってのものだと思うんだけど。俺の言葉じゃ、あの良さは全て伝えきれないけど、それでもいーの?」

「だめっ! だけど知りたいよぉぉ」



 名高先生の言葉は本当に繊細で、心に溶けゆき、じんわり染み込んでいくような、そんな美しいものだ。


 素晴らしいストーリー性と表現力が合わさるからこそ、胸をうつ作品が生まれるのだ。



 それは分かっているけど、知りたい。


 だけどいちばんはこの目で実際に読みたいのだ。