名高先生の正体は、水谷くんなのか。

 あとは水谷くんと直接会って、問い詰めるだけだ。



 だけど……。


 今まで私は、水谷くんを避けてきた。

 一方的に傷つけて、最低なことをしてきたんだ。


 そんな私が、水谷くんに今さら、なんて。


「都合が、よすぎるんじゃない……?」


 ぽろっと落ちた本音。自分自身への問い。


 そもそも、水谷くんは別に隠す必要がなかったら、すぐにアクションを起こすはずだ。

 それに、あんなに焦った顔なんてしない。


「実は俺、小説家なんだよね〜」とか、軽い口で言いそうなのに。


 言わないってことは、誰にもバレたくないってこと。

 そんな場所に、私は踏み込めるの……?

 自分の、欲望だけで。



「そんなこと、できない」


 せっかくリーチがかかっているのに、あと一歩を踏み出せないのがもどかしい。


「朝乃さんも体調不良ですか? 顔色があまり良くないように思えますが」

「あっ……いえ、そんなことは」



 田中先生の問いかけにぶんぶんと首を振る。


 もう私の頭の中は、水谷くんでいっぱいだった。