「あ、あなたみたいに羽花ちゃんに近づく人は……は、はっきり言ってっ、キモいです…!!今から十秒数えるので、まっ、回れ右をして帰ってください。じゃないと警察に通報しますよっ!?」



ところどころ情けなく裏返る声。


こんなにも文字に起こしたくないひどい言葉、生まれて初めて言ったよ。


ぜえぜえと息を切らしつつ、キッと彼を睨む。


切長の瞳が若干揺れ、それからおだやかに細くなった。


浮かべられたその笑みに、どことなく既視感を感じてしまう。



「なかなかの物言いですね、朝乃さん」



それはもう恐怖だった。


課題を学校に置いて帰ったことを提出日前日の夜に気づき、そのまま朝を迎えたときの次に怖かった。


あの絶望感は半端じゃない。


みんな荷物をしっかり確認してから下校しようね、などと頭の中で考えられるほどに、一周まわって落ち着いていた。



「どうして私の名前を…?」

「どうしてって……それはもちろん、わたしがあなたの数学教師だからですよ」


 恐、怖。