振り向くと、「朝乃ってさ」と遠くを見つめながら呟く水谷くんがいた。


その視線は太陽が沈む方を向いている。


夜の訪れを告げるように、だんだん沈んでいく太陽。


周りも暗色に包まれ始めている。



「どんなやつが好きなの?」



質問を頭の中で反芻する。


それは……恋愛的な意味で、だろうか。



「それって、どういう……」

「ああ、付き合うならどんなやつがいいのかなって」



……やっぱり。


質問をゆっくりと咀嚼して、思考を巡らす。


数多くの恋愛小説を読み、恋に憧れを持っていた私。


けれど恋愛経験はほぼ皆無に等しい。


そんな私が恋人に求める絶対条件は、たったひとつだけだった。



「本が好きな人……かな」



ジャンルはなんだっていい。


本を通して、愛を深めることができるのなら。


感動を分かち合ったり、ストーリーの辛さを一緒に嘆いたり、登場人物の過去に思いを馳せて涙したり、ハッピーな結末に喜び合ったり。


そんな心の動きをともに体験できる人にそばにいてほしい。