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「朝乃」
ある日のホームルーム後。
ふいに隣から話しかけられてびくりと肩がはねた。
「どうしたの、水谷くん」
珍しいなと思いつつ問いかけると、少しだけ口の端を上げた水谷くんは「これ見て」とスマホ画面を差し出した。
「クレープ?」
「ばか、声でかい。恥ずいからあんま大きい声出さないで」
「ご、ごめん」
唇に人差し指を当ててお決まりのポーズをする彼は、声をひそめて私に告げた。
「これから一緒に行かね?」
「ここに?」
「そ。この前の教科書のお礼」
なんと。
ジュースよりも高価なものになってしまった。
そもそもジュースすら冗談のつもりだったのに、本気にしてしまったのだろうか。
「そんな、いいのに」
「いや、今は金銭的に余裕あるから。まあ俺の気分ってことにしてついてきてよ」
にっ、と浮かべられた笑みに、思わずくらりとしてしまう。
美形はおそろしい。
私が受けとる美の量としては明らかに致死量なのだ。