「あの人はよく庭でぼんやりしていて、そんな時、そばにはいつも秀二がいた。正直言うとね、俺、最初は秀二が苦手だったんだ。というか、無愛想で怖かった。背も高いしさ。でもいつからか、離れの様子をうかがうようになって」

 柔らかいフリース地を指先が撫でる。


「一番初めの言葉は何だっけ。そうそう、枕の使い心地を聞いてきたんだ。意味わかんないよね。怒られているのかと思って黙ってたら、すごく気まずそうな顔してた。それから、何か理由を見つけては声をかけてきて」


 面識のない二人が出会って、少しずつ近づいて、家族になる。

 秀二は面倒くさい性格だから。

 そんな冗談めかした口調で語られるやり取りには、迷子の子ども同士が身を寄せあうような、ぎこちなくて清潔な思いやりがあった。


「……黒崎くんは、幸記くんに会って変わったんだね」

「別に運命的な出会いなんかじゃなかったよ。でも、きっと昔の秀二は幽霊になりたかったんだ。あの人みたいに、全部閉め出したかった。でも俺を見つけて、無視できなくて、どっちにも行けなくなった」


 当たり前だ。だって黒崎くんは生きているんだから、完全に心を殺すなんてできるわけがない。

 きっと黒崎くんだけが その事実に気付けなかった。