「……誰もいない時は、死人みたいな顔してる」


 私の心を読んだみたいに、黒崎くんが言葉をつなげた。

 なんの感情も窺えない表情は、けれど、ほんの少し風になでられただけで血を流しそうだった。薄紙に傷つけられる乾いた指のように。


「事故から少し経った日、俺は兄の部屋で大きな紙袋を見つけた。銀の袋に金の包み紙の。……中には、兄のものと色違いの、青い飛行機が入っていた」

「…………」

「同じものがなかなか見つからなくて、誕生日前日まで探したって。寂しい思いをさせてごめんって、手紙に」


 残酷な事実を語る唇。

 引きつった表情は笑っていた。
 笑うしかない絶望を乗せて。


 私は何も言えなかった。かける言葉なんて、一つも見つからなかった。

 どれほど恵まれても、慕われても、征一さんは何も感じない。要さんの言っていたのは事実なのだろう、思いつきで投げ出しても惜しくない無価値な人生。

 その原因は黒崎くんで、でもそこにあったのは小さな誤解と、お兄さんを慕っていたからこその嫉妬で。


 それだけしかなかったのに、ささやかな幸せは永遠に失われた。