「俺はこんなに寂しいのに、なんで笑ってるんだ、誕生日も覚えていないのに、なんで兄ぶれるんだって考えて」


『ねえ秀二、少し待っててくれないかな。今ちょっと用事を頼まれてるんだけど、急いで済ませるから、その後で――』

『急ぐって何のために? 俺のことなんてどうでもいいくせに、変な気遣うなよ』

『秀二をどうでもいいなんて思ってないよ。とりあえず、それは一度元に戻しておこう? 父さんに見つかったら叱られるかもしれないし』


「本当は仲直りしたかったのに、向こうが謝るまではって意地張ってたから」


『なんでそこであいつが出てくるんだよ、俺をかばってるふりして、結局あいつの味方なんじゃないか!』 

『そうじゃないよ。秀二、僕はただ』


 黒崎くんによって語られる二人のやり取りが、ふいに輪郭を伴って瞼裏に描き出される。


 ここではない遠い場所、遠い夏の日の記憶。

 絶望の予感が、足元からじわじわと這い上がる。



「兄が飛行機を取り返そうとした瞬間、取られるって思ったら頭が真っ白になって……後は一瞬だった」