「七海さん。これからは婚約者として、俺を頼ってくださいね」
すぐには反応することが、出来なかった。彼は優しい微笑みを私に向けてくれていた。それだけで、何だかとても泣きたい気持ちになったのだ。
「はい」
彼の一つ一つの行動が、私の胸に優しさとなって染み込んでくる。
「あの、颯霞さん……。私にここまで良くしてくれたのは、貴方が初めてでございます」
颯霞は一瞬、目を瞠った。そしてゆっくりと瞳を伏せて、再び口を開いた。
「七海さん。この婚約には多少の強引さもあったかと思います。七海さんはこの婚約を望んでいなかったかもしれません。
ですが俺は、貴女が俺の婚約者で良かったと思っています。少しの後悔もありません。
俺は、貴女と、七海さんと、幸せになれるという自信があります」
その瞳、口調には一切の曇りも陰りもない。やけに真剣な声音で綴られたその言葉たちを聞いていると、とても嘘をついているようには見えなかった。