「貴女は、この庭を気に入ってくださいましたか?」
少しの緊張が颯霞から漂っている。その象徴に、さっきまでとは違う改まったような敬語。
この庭は、有名な庭師に頼んで颯霞が七海にとわざわざ作らしたものなのだろう。
「はい。とても、気に入りました」
これは、本音だった。
ここに来てから初めての……。
七海は改めて苦笑してしまった。
自分はこれほどまでに、人を騙す人間だったのかと。
随分と落ちぶれてしまったものだ。
私も、自分の心のままに生きてみたかった。
利用される人間ではなく、しっかりと、自分の意思を持つのを認めてもらえる人間に。なりたかった。
こんなにも良くしてくれる人を、騙すことなど本当はしたくない。
でも、今この時にも、私を監視している人物はいるのだ。それだけ、私に託された任務は重大なものだから。