他人には知られていない、私のもう一つの顔。あまつさえ、それは両親にも知られていない。


───私は、あの二人の、本当の子供ではないのだから。


「七海さん、気分転換にどうですか。庭を眺めるというのは」

「はい。こちらもそうしたいと思っておりました」


颯霞と七海は外用の履き物を履いて、和風の日本庭園に足を踏み込んだ。真紅の鯉が綺麗に整えられた池を優雅に泳いでいる。


ジャリ、ジャリという砂の心地の良い音が静かな空間に響く。立派な松の木が陽光を浴び深緑に染まり、綺麗な水面(みなも)が太陽の光に反射してキラキラと光っている。


「とても、趣深いですね。何でしたっけ?昔の言葉は。…あっ、そうそう…」

「「をかし」」


颯霞の低音の耳に心地良く響く声が、七海の声に重なった。七海は少しだけ驚いた。


颯霞は先程から、ぼんやりとした面持ちで庭を見ていたので自分の話など聞いていないと思っていたのだ。


しかし、颯霞はしっかりと七海の話に耳を傾けてくれていた。二人は微笑み合って、優雅な一時を過ごした。