目の前で行われる喜劇は最上の娯楽だ。この場に居合わせたことを感謝しながら、キースはふたりの行動を見守った。だがセシリーは、あまり長引かせても(こく)だと思ったか、顔を覆った両手を外し、潤んだ目でリュアンを捉えた。どうやらばらしてしまうつもりらしい。

「リュアン様。今から言うことをよく聞いてくださいませ。私、実はあなたに……」
「ど、どうしたんだセシリー嬢。な、なんなんだ、そんな目で見つめられても俺は、騎士として……」

 顔を背けたリュアンの美しい細面には、珍しく少し朱が差している。
 徐々にふたりの間で緊張が高まり、まるで愛の告白をするような雰囲気の中、セシリーは花開くような笑顔を向け、態度を裏返した。

「砂粒ほどの好意もございませんのでご心配なく。ちなみに、全部嘘です」
「騎士として…………は?」

 食い違うセシリーの表情と言葉にリュアンは混乱し、額に手を当ててよろけたが、彼も騎士として誇りがある。なんとか踏みとどまるとセシリーに真意を尋ねた。