セシリーは泣き崩れそうな父の首に手を回して抱きしめた後、軽く突き放す。

「駄目よ。お父様にも大事なお役目があるんだから。それに……大丈夫。私の隣にはちゃんと彼が居てくれるんだし」

 オーギュストは各地にいるクライスベル商会の支部と連絡を取り、今も多くの物資を王都へと集めてくれている。と同時に、他の多くの商会と連携を取って、王国軍への補給線の役割を務めなければならない。リズバーン砂丘付近ではもう多くの魔物と兵士たちの戦いが始まっているのだ。

「娘さんは俺が守ります」

 隣に立つ、出立の直前に迎えに来てくれたリュアンをセシリーが肘で突き、頭を恥ずかしそうに下げた彼をオーギュストが憎々し気に睨む。

「ぬがーっ! 団長殿……いや、リュアン君! 娘に少しでも傷を付けたら許さんからな! いや……やはり不安だ。よし! ここで私と決闘して勝った方が娘に着いて行くことに……」
「いい加減にしてお父様! そんなことしたら、もう一生口聞かないからね!」