そんな中……一番取り乱していたのは、父、オーギュストだったかもしれない。

「セ、セシリー、父の形見だと思ってこれらをすべて持ってゆくのだ、いいな? 私が厳選した品々だ……きっとお前の身を守ってくれるはず!」
「いやいやいや……無理に決まってるじゃない」

 屋敷の庭には食料品や生活用品、女性用の甲冑や果ては子供服やおもちゃなどよく分からない品々がうずたかく積まれており、げんなりしながらセシリーは断った。

「あのねぇお父様。嫁入りでもこんなには持たせないわよ……。しかもあんまり向こうで使えそうな物が見当たらないし」
「よ、嫁入りだと……!? ぐぬぅ、やはりそういったことを意識するところまで仲は進展しているのか? だ、だがなセシリー……娘を任せる親としては、これくらいの準備はしなければ気が済まんのだ。本当に行ってしまうのか、やはり私も着いて……」

 概ねの事情を知っているオーギュストを説き伏せるのはものすごく大変で、旅立つ前の大事な二日間は殆どがそれに費やされたと言っても過言ではなかったが、大事な家族なのだからそれも仕方ないとセシリーは割り切ることはできた。