その日は黙って頷くと別れ……その二日後、出立の日。クライスベル邸を発つ前にもまたティシエルは来てくれた。涙をいっぱい貯め込んだ疲労の濃い顔で彼女は大きな袋をセシリーに押し付ると、逃げるように走り去って行く。

 袋を開けてみると、中には瘴気を防ぐための魔導具がいくつも入っていて、添えられた彼女と同じ髪の色のパステルカラーの紙片には、無事を願う言葉があった。それは途中までしか書かれていなかったけれども、端が滲んだその文字に彼女の想いが窺えて……十分に元気づけられた。

 次いで、ロージーとメイアナが食べきれない程多くの食事を作って持って来てくれた。ふたりにはリュアンたちも事情を話していないはずだが、町の中央に立つ時計塔の様子を見て何かを感じたのだろう。不安に思ってもおかしくないはずだが、彼女たちはいつもと同じ明るい表情で接してくれる。

「団長にちょっと遠出するって聞いたからさ……。あんたたち、ちゃんと揃って帰って来なさいよ――」
「また、いつでもリュアン様とお茶を飲みににいらっしゃってくださいね――」

 ふたりのいつも通りの笑顔は、セシリーに大きな勇気をくれた。