「だがな……ラナは復讐しろなんて、一言も言わなかった。自分と出会ってくれた皆に感謝して、この世界に生まれられたことを喜んで、俺たちにそれを守るよう託して逝った! その気持ちを受け取った俺が……憎しみなんかに囚われるわけにはいかないんだ! セシリー、思い出せ……お前の中に居る彼女を!」
「忌々しい……! あなたから先に葬れば、その子の憎しみも増すでしょうね。決着は着けられなくて、あの彼は悲しむかもしれないけれど……先に消えていただきましょうか」

 エイラはリュアンに向けた二つ目の魔法陣を、片方の手でじっくりと時間を掛けて描いてゆく。地面に描かれた拘束目的のものとは違い、殺傷力の高い魔法――空中に姿を現した、巨大な深紅の棘が彼を一撃の下に葬らんと狙い定める。

 切迫した状況下で……リュアンの腕の中、震えながらセシリーはエイラとの記憶を思い起こしていた。
 
 小さな頃は、よく一緒にお風呂に入って優しく体を洗ってくれた。
 近所の子供と大喧嘩して泣いて帰ってきた時も、慰めて一緒に謝りに行ってくれた。
 父が仕事で出かけて恋しくなった時、寂しくないように一緒のベッドで眠ってくれた。

 熱を出した時、初めてのお料理に失敗した時、小さな悩みでくよくよした時……いつも傍にいて見守ってくれていた――そんな記憶、いくらでもある。いつでもおかえりなさいって、抱きしめてくれたじゃない。