彼は力を振り絞ってその手を必死にセシリーの頬へ添え、思いの丈をぶつける。

「そんな大事な思い出が、たった今明かされた少しくらいの辛いことで信じられなくなったのか? そんなはずないだろ……お前なら、どれだけのことがあったって皆を見放したりしない! 頼むから顔を上げろ! 本当にあの人をそのまま、仇にしていいのか!?」
「……リュアン様」

 セシリーの肩が震え、両手が胸の前でぎゅっと握り締められ……闇の圧力が微かに弱まる。それを見てエイラは小さく舌を鳴らした。

「ふん。月の王、裏切りの子の子孫よ……あなたこそ私を憎むべきでは? 十年前の事件で聖女となった娘を襲わせたのもこの私。それを聞いてもまだそんな甘いことを言えますの?」
「あんたの話を聞いた時からわかっていたさ……そんなことは」

 リュアンはエイラを怒りの籠る瞳で一瞥し、彼女の言葉を否定した。