「短い間に、色々あったな」
「え? ああ……そうですね。私にとっては、本当に目まぐるしい数か月でしたよ……。でも、うまく言えませんけど、結構悪くはなかったかなって……」

 おそらくこの数か月の記憶は幾年月が過ぎようとセシリーの胸の中に大きく残り続けるだろう。それだけ今まで生きてきた中で特別な出来事が凝縮された騒乱の日々だった。

 しかし……決して大変なばかりではなかった。リュアンもそれには同意してくれる。

「なんとなくわかるよ。俺も……俺は、おそらく死ぬまであの国には戻らないだろうと思ってたんだぞ。もし目的を遂げても、もうあそこは俺が訪れていい場所じゃ無いんだって……ずっと言い聞かせてたから」

 彼がその顔を窓に向け故郷を思いやると、差し込む夕日が紫の瞳に映えてとても綺麗で、胸が詰まる。

「……でもさ、お前が向こうで行方知れずになったと聞いた時……迷わず言えた。俺が行くって……。あの時そうしてよかった。でなければ、きっといつか後悔してた。知らない内に色んなものを失ったことに気づいて、今度は立ち上がれなかったかもしれない」