すると、見計らったかのように入り口から白い鎧を着こんだ正騎士団の団員が入ってきた。周囲を訝しげに見ている彼らにキースは事情を説明し、子爵の手下たちを拘束するように伝えると、この上なく晴れ晴れした顔で振り向く。

「これにて一件落着というわけですね。では皆さん、我らが本拠地に戻りましょうか」

 そう言うと彼は寒い寒いとわめくベジエ子爵をそのまま引きずってゆく。凍り付いているか彼の身体はよく滑るらしく、抵抗なくするすると前に進んで行った。

 それを見ながらリルルとセシリーはぶるりと体を震わせた。

(ね。キースは怒らすと怖いんだから……)
「(肝に銘じておくわ……。)さあ、ふたりとも戻りましょう。ルバートさん、歩ける?」
「ええ……。そういえば御嬢様、オーギュスト様は戻っておられますか?」
「帰ったと思ったら、商会に出向いた後すぐにどこかに消えちゃって。隣の領地だとか家の者には聞かされたけど」
「ふむ。もしやあのお方が……いやしかし、なぜ今さら?」
「お爺ちゃん……?」

 彼の救出には成功したが、未だクライスベル商会を取り巻く問題は解消されていない……。

 ルバートの呟きを不審に思いながらもセシリーの頭によぎったのは、すべての始まりとなった一対の男女の影。しかし彼らと今の事態を関連付けるとっかかりが見つけられず……闇雲に疑うのもよくないと首を振って忘れた。