「うちだと……? ならば、お前がここの経営者の娘であるのか? ふむ……ならば皆の者、こやつに制裁を。貧しい民草の怒りを思い知らせてやるのである!」
「ちょっ……嘘でしょ!?」
(セシリー、下がって!)

 後ろの十数人の暴徒が団子状になってこちらになだれ込み、リルルが庇うように間に割り込んで唸った。まさかこんな街中でいきなり襲われるとは思いもよらなくて、頭の中でなにか彼らを止められる魔法を探すが……それに先んじラケルが行動を起こしていた。

 いつもとは違う冷たい怒りを瞳に宿らせ、彼は非情ともいえる軽やかさで詠唱を口ずさむ。

「いい加減にしろよ。そこはセシリーの大事な場所なんだ……消えろ。『火精よ、その身を礫となし、焦熱の雨を降らせ』」
「えっ!?」

 途端に、中空に浮かんだ小石程度の火の玉が暴徒たちを照準し、頭の中のラナの知識にそれが『火礫』という魔法だと知らされたセシリーが叫んだ。