(こんなことを望んでいたわけじゃない……)

 不意にそんな考えがよぎり、セシリーはそれを不思議に思う。気づけば自分はふたりのことを、まるで旧知であったかのように懐かしい思いで見つめている。まるで自分の中に誰かの記憶が存在するかのように……。

「兄上だって……何も、出来なかったじゃないか! あなたがもし、離宮にいたあの子たちの傍に着いててあげたなら……異変に気づけたかもしれない! 自分が聖女の守り役として強くなることばかり考えて、周りを見てやれなかったのはあんたなんじゃないのかっ!」
「ぐっ……」

 ジェラルドの怒りに触発されたかのように、リュアンもまた長い間自分の中に封じ込めていた行き場のない思いを解放する。電光石火の素早い突きが、ジェラルドの剣と重なり火花を散らす。

「あんたこそ、ちゃんとしてれば――!」「貴様がそれを言うか!」

 防御すら考えずに飛び込んだふたりの一撃が同時に互いの体を強く叩き、腕輪が砕け、魔力の鎧が消失する。これ以上は危険だ……。