記憶にないはずの情景は、王太子レオリンの明朗な号令にて掻き消された。

「始めッ!」

 自然と庭園の中央で向かい合うふたりに視線が集中する。しかしふたりは剣を構えたまま動かない。

 ガレイタムとファーリスデルでは流派が異なるのだろう。ジェラルドは真正面に剣を構えたバランス重視の型、リュアンは刃を後ろに引いた攻撃重視の構えで慎重に間合いを測り合う。

「どこで剣を学んだかは知らんが、案外様にはなっておる……。今剣を引くならば、王宮勤めの衛兵くらいにはしてやってもよいぞ」
「御免被る……いくぞっ!」

 果敢にも先に踏み込んだのはリュアンだ。地面をこするような位置からの切り上げが空を裂くが、ジェラルドは予想していたようにそれを半歩引いて躱し、続く連続攻撃も軽く刃を当てて逸らすと、反撃に移る。対してリュアンもジェラルドの力強い縦切りを後退して回避、続く横薙ぎから身軽にも後方に宙返りして逃れ、距離を取った。