「仮にそうだとして……そんな物はこのガレイタム国内にて何の拘束力も持たない! お前の言っていることは仮定を並べ立てただけの屁理屈に過ぎぬ!」
「いや、お待ちいただきたい。仮に彼の言うことが真実であるのだとしたら、我々も少し貴国との付き合い方を考えねばならない。なにせヴェルナー家もわが国では有数の名家。その家の息子がこのような扱いを受け、そして未だファーリスデル人の国籍を破棄されぬまま、オーギュスト殿やセシリー嬢が不当に拘留されているということになると、いくら彼女が月の聖女であるという事情があったとしても国として見過ごすわけにはいきません。せめて一旦身柄を返還いただき、彼女の意思を確認した上で婚約の破棄を含めた然るべき手続きを終え、ガレイタム人に帰化させた後で帰還させる……と言うのが筋ではないでしょうか?」
「む……しかしですな」

 整然と言い立てるレオリンの言葉にジェラルドは、貴様はどちらの味方なのだという顔を向けた後、苦痛を滲ませた声で言う。

「あなた方は、当国の事情を御存じでいないからそんなことが言えるのだ……。レフィーニ家の滅亡や、先の聖女候補の刺殺事件の後、長く聖女の座は空位として国民に不安を与えている。彼らを安心させ、長くこの国で幸せに生きてもらうためにも、新たな象徴が必要なのだ……そしてそれは真の聖女でなくてはならない!」