「関係はある! 何故なら、そこにいるセシリーは、俺の婚約者だからだ!」
(んぐ――!?!?!?)
 
 オーギュストに口元を押さえられたため声は出なかったものの、セシリーは卒倒しそうになるほど驚愕して、父が支えてくれなければその場に尻餅を着くところだった。

 ジェラルドもよもやこんなことを言い出すとは思っていなかったのか、しばし眉を乗せて応接間に沈黙が流れる。

 その間リュアンは懐から出して来た書類を広げると、ジェラルドに突きつける。
 そこには、オーギュストとヴェルナー家当主クライデンという人物の名、そして、リュアンの名前がある。一つ空欄があるのは、おそらくセシリーの署名を書き込むための場所だろう。

「後は彼女の名前を貰えば婚約は成立、そうして俺は、セシリーと共にガレイタムに戻るつもりだった……だが、その愛しの彼女をあなたが連れ去ってしまった……。あなたが邪魔することがなければ、俺は真っ当な方法で責務を終え、聖女を連れた上で国に帰り付くことができたのです!」

 リュアンは胸を押さえ、ぐぐっと拳を握り締める。やや演技過剰のその芝居は素人芸だけに真実かどうか判断し難かったのか、ジェラルドは突っ込まずに批判することを選んだようだ。