逃げもせず呆然と立ち尽くす人影を突き飛ばすと、俺は倒れたラナを膝の上に抱え上げる。治癒の魔法を急いで詠唱し止血したが、失血はかなり多く、加えて刺された部分はどす黒く変色している――毒だ。

 一目でまずいとわかり、知っている解毒の呪文を片っ端から詠み上げる。次いで駆け寄った宮廷魔術師たちもそれに続くが、彼女の顔色は変わらない。解毒魔法は使われた毒の種類に合わなければ効果が出ず、誰も彼女の症状を取り除いてやることはできなかった。

『くそっ……くそおっ』

 王宮の優秀な治療師であればまだどうにかできる可能性がある……。一縷(いちる)の望みを託そうと、涙まみれの顔で抱き上げようとした俺に、ラナは震える手を添えわずかに首を振った。

『……ごめんなさい。もう、無理そうだから……。ここで、少しだけ話を聞いて?』
『諦めるな、絶対治るから……! ここから城まで三分もかからない!』
『聞いて、お願い……!』