――創立祭が行程の半分を消化した時、辺りにかすかに赤い霧が充満し始めたことに気づけなかったのは……展示物に気を取られていたせいや、天候がやや曇りがちで陽の光が差さなかったことも無関係ではない。しかしなによりその魔法は、俺や優秀な魔術校の生徒、そして護衛に入っていた宮廷魔術師すら気づけないほど巧妙かつ緻密(ちみつ)隠蔽(いんぺい)され……怖ろしい勢いで周囲に変調をもたらした。

(体が……動かない!?)

 石のように固まった俺はすぐさま、隣のラナを庇うべく手を延ばそうとした。しかしあまりにも反応が鈍い。当然、体も口も動かせないこの状態では魔法も使用できず……ひりついた思考のまま《解消》の魔法陣を描く指先も、遅々として進まない。ラナも同様に固まったまま瞳だけがゆっくりとこちらを向いていた。

 知覚は正常で、周囲で体の安定を失い倒れる者がいるのを伝えてくるが、誰ひとりうめき声すら発さない。そんな中唯一ひとつの人影だけが、ゆっくりと……しかし速度を増しつつ一直線にラナへと迫るのが見え、目的を察した俺の頭を焦燥が駆け巡る。

(ラナ……動くんだ! 避けて!)