聞けば、すでに兄上が直接ラナの生家に出向いてその話を伝え、離宮に入ることを要請していたのだという。親元のトルシェ伯爵家はそれを喜んで受け取り、彼女自身もそうするしかないと納得したのか、『もし聖女としての力をあらわすことができれば、いつか多くの人を助けることができるかもしれないから。夢の形が変わっただけよ』とやや寂しそうに笑っていた。

 もう彼女にしてあげられることは、きっとない――そう悟ると、俺はせめて卒業時に快く送り出してやるべく、教わった細工物の技術でなにか贈り物を手掛けようとしたけれど……。次第になんとなく熱意はしぼみ、結局それは完成しないまま道具箱の奥に仕舞われることとなった。 



 三年の後半になるとラナは後宮に入るための準備期間に入り、滅多に学校には来なくなる。俺も彼女がいないことを寂しくは思ったが、たまに会えてもなにかと理由をつけて避けてしまうようになった。時々王宮で兄上とラナがふたりでいるのを見かけて、なんとも言えない気分を持て余したりもする。だがそんな時は自分に何度も言い聞かせた……兄ならばきっと彼女を不幸せにはすまい、少なくともこんな(うと)まれ気味のうじうじとした第二王子なんかよりは、と。