背後にいる何者かの存在が疑われたが、明確な証拠は残されておらず……それを重く見た王家は現在聖女の血筋を引く娘たちをひとつの場所に集め、聖女候補としてその資質が開花するまで国を挙げて守らせることに決めた。そうした経緯で誕生したのが現在王都にある、あの離宮だ。 

 俺はこのことをどうラナに伝えるべき悩んだ。月の聖女候補として離宮に入れば、いつ出られるのかは分からない。ともすれば彼女の夢が潰えることとなりかねない……。だがしかし、このまま家にいれば、彼女の身に危険が迫る日が来ることもあり得る。

 結局、俺は彼女自身に選択を委ねようと、大事な話があると彼女を王宮に呼び出した。

 ……だが、そのころにはもうすでに彼女の気持ちは決まっていた。ラナは思いもよらぬことに兄上を伴って現れ……そして、こう話した。

『レイ、私……聖女候補として離宮に入ることが決まったの。大変な栄誉をいただいたんだ。喜んで、くれる?』
『レイアム、すまぬが今は国にとって大事な時なのだ。もし彼女たちの身柄が損なわれれば、王家の信用は更に失墜(しっつい)し、長き保たれてきたこの国の平和も揺らぎかねん。お前にも色々な思いがあるだろうが、今はこらえてくれ……』