『あらゼル様……そうですか? だったら嬉しいです』

 ある日、天気のいい庭のベンチで疲れた目を休めながら俺たちが談笑していると、偶然兄上に話しかけられ……いつのまにか彼を愛称で呼ぶようになったラナがはにかむ。兄は将来国を率いるため各地を回り、著名な人物に政治学や軍学などの教えを乞いながら剣の腕を磨いているらしく、あまり最近は姿を見かけない。

 だが、一応弟である俺のことや、一緒に居ることの多いラナのことは気に掛けてくれているらしく、たまに会うと旅先であった話や、土産物をくれることなどもあった。父の風貌を受け継いだ精悍な顔つきや、鍛え上げた体はずっと大人びて見え、将来は王としてこの国をまとめるであろうことは疑いようはない。正直羨ましさと嫉妬も少しはあったけれど、同時に尊敬もしていて、俺もいつかはこの人の役に立てるようになりたいと願うばかりだった。

 そうした若い時の時間はあっという間に過ぎてゆき、二年に進級し、在校生としてラナの卒業を見送る立場になった俺の耳にある日、不穏な噂が届く。聖女の継承家として本筋であるレフィーニ家が(おびただ)しい数の魔物の襲撃によって一夜にして滅ぼされたという。

 これまでに例のないむごたらしい事件。ガレイタムでも年々魔物による襲撃が増えているのは周知の事実なのだが、特定の目標に対し集中するようなことは今までにない事態で、王家も大いに浮足立つ。