「やはり来ましたね……なんとなく、そんな気はしていた」
「オーギュスト氏……」

 立ち上がろうとするふたりを手で制し、オーギュストも体面に座る。その表情は(いわお)のように固く、感情が読み取れない。彼はそのまま静かに現状を話し始めた。

「あなたがたも耳に挟んでいることでしょう。今、町中で噂されている、新たなる月の聖女というのは……うちの娘です。セシリーは王宮の、ジェラルド様の離宮にいるでしょう。赤髪の騎士殿、君の預けた白い犬も、おそらくそこにいる」
「……ちょっと待って下さい、ジェラルドってたしか、ガレイタムの王太子様ですよね!? その人の離宮ってことは……セシリーをそんな!」
「落ち着けラケル!」
「落ち着けませんよ! セシリーの身にもしもなにかあったら!」
「王太子は……! 誰彼構わず女に手を出すような人じゃない……」
「そんなことがどうして団長に分かるんです!」

 憤るラケルを宥めようとするリュアンを見て、オーギュストは呟いた。