一方でリュアンも落ち着きを装ってはいたが、内心は焦り、ラケルを気に掛ける余裕も無いほど深く考えに沈んでいた。

(俺は……どうするべきなんだ。こうして連れ戻しに来ているのは、単なる俺たちの我儘なんじゃないのか?)

 別にガレイタム王家は、彼女を私利私欲のために利用しようとしているわけではない。この国の平和のために、彼女にその象徴としての働きを望んでいるだけなのだ。これまでもずっとそうして来て、歴代の聖女たちもそれを受け入れてきた。もし、それを彼女が自分の意志で望んだならば……。

(……俺は、それを背中を押して送り出してやれるのか……?)

 おそらくそうなれば、きっともう自分と、ガレイタム王国に仕えることになるセシリーの接点は無くなり、二度と彼女と言葉を交わすことも無く生きることになるだろう。

(それで、いいのか……)

 そこで思考は打ち切られた。扉の開く音が、室内に響いたからだ。