ぽたりと一滴、握った指の隙間に涙が落ちたが、今はこらえる。
 母の力を借りてでも、どうしてもひとつ済ませておきたいことがあった。それはある意味で、父を裏切ってしまうことになるかもしれない。それでも自分を守ってくれた母なら、きっとこの気持ちを分かってくれる……セシリーは信じると、隣で同じようにして祈っていたオーギュストの目が開くのを待って告げた。

「……お父様。今ここでちゃんと話しておきたいことがあるの。聞いてくれる?」
「……ずるい子だ。サラの目の前で娘の頼みを断われるわけがない。その目も、魔法を使う時の彼女の瞳にそっくりだ」

 オーギュストはそう言うと表情を曇らせ、ため息を吐いて体を起こす。気づくと視界が明るくなっているのは、母への祈りにわずかな魔力が反応したためだろうか。集中すると、修行の成果か体の中の魔力が落ち着いているのが感じ取れ、少し安心できた。

「魔法騎士団の彼らのことだろう?」
「ええ。お父様が私を思って、彼らを遠ざけようとしてくれたのはわかってる。でも私は、やっぱり彼らに協力したい! だって、彼らは私のことを仲間だって認めてくれたの! 帰ってくるのを待つって、そう言ってくれてるんだもの!」
「それだけは駄目だ! 聖女などにされてしまえば何をさせられるか分からん! お前は魔物と戦ったことも無い、ただの娘なんだぞ……! この間攫われた時、恐ろしいと思わなかったのか!? もしお前に特別な力が無ければ……彼らが助けてくれなければ、二度と平穏な生活に戻れなくなっていたんだぞ! それを親として――」