「あまりここまでは村の人も来ないはずなんだがな。通りすがりの親切な誰かが、気を利かしてくれたのかも知れないね。彼らの声でも聞ければわかるのかも知れないが……」

 見上げるオーギュストへ、小鳥たちは挨拶を告げるかのように、ちゅぴちゅぴと小さくさえずる。考えていても仕方ないので、ふたりで近くの沢で汲んでおいた水をかけて掃除し、ぴかぴかになるまで石碑を磨いた。それが終わるとすっきりした表情で立ち上がり、オーギュストは遠くを見渡す。

「ここからは夜には村の明かりも、山間から昇る朝日も見られる……。それらが少しでも慰めになっているといいんだが」
「大丈夫よ……。お母様、きっと喜んでるわ」

 遠くには麦畑で村人が刈り入れをしている姿や、街道をゆく旅人の姿が小さく見え……人々の日々の営みが身近に感じられる、そんな場所。

 しばしそれを眺めた後、セシリーは石碑の前に跪き、花と祈りを捧げた。

(お母様、こんなにも長く訪れずにいて……。今まで色んなことを忘れていて、本当にごめんなさい。お父様に甘えてばかりの駄目な娘だけど、今は少しずつ、私を認めてくれる人ができてきたんだ。私もお母様みたいな素敵な人になれるよう頑張るから、見守っていてね……)