(リルルはいつも可愛いなぁ……。この子と話せたらいいのに)

 こんな日にリルルの白い毛皮を撫でていると、セシリーはとても平和な気持ちになれる。気持ちよさそうに丸まった彼としばらく穏やかな時間を過ごした後、セシリーは御者を務めるオーギュストの隣に移動する。

 春先なので少し冷えるが、からっとした風は気持ちいい。もてあそばれる髪を押さえながら、セシリーはオーギュストに尋ねた。

「疲れたでしょ。変わろっか?」
「ハハ、馬鹿にしないで貰いたいね。これでもまだまだ若いんだから、心配無用さ」

 オーギュストはひょうきんな仕草でぱちりと片目をつぶる。それはセシリーが今まで見てきた父の顔だ……しかし、一番深い記憶の中の顔とは似ても似つかない。

(すごいなぁ……人間って)