「今日は無理そうだな。ラケル、先に戻ってていいぞ。俺はギリギリまで待ってみる」
「僕も残りますよ。任務までまだ時間が有りますし」
「「…………」」

 ふたりの顔に、同時になんとも言えない微妙な表情が浮かぶ。

 彼らがここに来たきっかけは、キースに「セシリーさんに渡しておきたいものがあるので連絡を取って欲しい」と頼まれたことによるのだが……実は彼らにとってそれは口実で、騎士団に急に顔を出さなくなったセシリーを心配する気持ちの方が強かった。

 互いにそれを感じ取り、ぎこちない表情でちらちらお互いの様子を窺い合うふたり。しかし、程無く待ち人は来たる。最初、ぱたぱた駆けてくる彼女は別人に見えたものの、クライスベル邸に務めていた侍女の衣装だったのでわかりやすく、ふたりはすぐに気づいた。

「「セシリー!!」」
「あれ、ばれちゃった。どうしてわかったんです? 驚かそうと思ったのに」

 セシリーは頭に被っていた桃色のかつらを外すと頭をふるふると振り、彼らに久々の笑顔を向ける。そんな彼女の肩にリュアンは手を置いた。